先日、スーパーで苺を買ったら少し黴ていた。やられていたのは一粒だけだったので、それをぺっと捨ててしまえばよかったのかもしれないが、せっかく綺麗に揃った苺だったし、500円以上したこともあってスーパーに電話をして交換をしてもらった。
別の日、服屋で試着をして仕事用のジャケットを買った。セール外商品の棚の試着をしていたら、店員さんが「こういうのもありますよ」と裏から持ってきてくれたジャケットで、少し変わった形だけどシンプルに着れてとてもかわいく、仕事でもプライベートでも着れそうで、とても気に入って購入。帰りの電車の中で、そのうちセットアップできるパンツも買おうかな、とオンラインサイトをみたところ、買ったばかりにジャケットがセール価格になっているのを発見(オンライン限定セールとは書いていない)定価で買っていたので、ガーンってなった。どうしたものかなと思ったけれど、店舗におそるおそる電話してみるとセール価格に打ち直してもらえることになった。(先方のミスということで謝ってくださったが、気持ちとしてはラッキー!が強くてオールオッケー)
10年前だったらどっちも連絡しなかったかも。万が一揉めたら嫌だし、何より電話が面倒臭かったからだ。「まー・・・いっか」で適当に流して、その割にちょいちょい思い出してほのかな不満を溜めるようなことをしていただろう。でもその小さな不満を溜めることがトータルで与えるストレスコストだとか、バカにならない。それ以上にもういい大人なんだから、しっかりしなければ、と思った。
ちょっと成長したぜ!とホクホクしていたわけだけど、ふと冷静に考えてみると、これって「厚かましいおばさん化した」というラベルを(少なくとも一昔前だったら)貼られる行動なのかもしれない。そう考えると「おばさん化」の多くが、どれだけ意味がなくて一方的な言いがかりなのかよくわかる。
同時に、ここは完全に防衛のための自虐として口にしやすい部分で「めっちゃおばさん化してきたよ〜笑」ってカジュアルに言ってしまいがちかもと思った。でもそれは下の世代を含む、世界に向けた呪いの再生産だと思うので私は絶対にやらないようにしたい。
中年となって、幼い頃に刷り込まれた呪いについて、いろんな風景が見えてくる今日この頃。年齢にしろ、ジェンダーにしろ、ルッキズムにしろ、自分の中にも色々あるそれを、できるだけ冷静に見つめていきたい。
ピチューとショコラうさぎちゃんが似ていると子と盛り上がる。
さてさて、各所で怖いと盛り上がっている、はるのもりばん vol.2 テーマ「ホラー」について、ツイートもさせて頂いたけど、ブログでもう少し書いてみたい。
👻本日発行👻
— ばんかおり (@bobmarluy) 2022年1月15日
俳句ネプリ「はるのもりばん」2号が本日よりコンビニにて印刷していただけます!期限 : 1月22日(土)まで
テーマ「ホラー」
「寄生性桃源郷」春野温 @yutaka_haruno
「るるるゐる」箱森裕美 @zurume
「うづ」ばんかおり
各連作5句を発表!#はるのもりばん pic.twitter.com/umlwSG5p8y
「寄生性桃源郷」春野温
もう、この言葉が怖い。寄生性桃源郷って何。そして1句目。
ブロッコリのもこもことした木みたいなフォルムの桃源郷をイメージした時に、何故か「顔の見えない桃源郷だな」と思った。顔ってなんなのか自分でもよくわからないが、もこもこが頭に見えたかもしれない。得体の知れない、しかし桃源郷であるそれが「来る」というのが、なんか知らないけどめちゃめちゃ怖い(こっちくんな!)
「桃源郷」は吉兆に属する言葉で、本来怖いことではないはず。そもそもこの句の中にホラーっぽい、不穏な単語は一つもない。なのに、どこから来るのか、誰の元に来るのか、この句の主体は誰なのか?と考えれば考えるほど、気味が悪い。これは字足らずが醸し出す不安感と不気味さがほんとよく効いている。
字足らずと言えば、秋元不死男の句
虹が出るああ鼻先に軍艦
この、プツリと途切れた不穏さ、不気味さが好きなのだけど、この桃源郷の句も同じ怖さを感じた。
牡蠣喰へば牡蠣の住み着く臓腑かな
4句目。私はあまり牡蠣を食べないのだけど、それでもギャッと悲鳴をあげてしまった。生牡蠣にレモンをきゅっとしぼってつるんと飲み込む、おいしー!と、どんどん飲み込む、飲み込んだ先に、どんどん、どんどん、肉に潜る牡蠣……ゾッ。
「るるるゐる」箱森裕美
字面の違和感ももちろん、得体の知れないものが居るという意味にも、あるいは動詞の活用形にも取れてシンプルに不気味。(でもちょっとだけるるる学園も思い出しました)
花蕨体内に木馬の廻る
おや、かわいらしくて、少し怖いが幻想的な句……と、一瞬思った。しかし二句目からの並びに違和感を覚えた瞬間、回転木馬のどこか懐かしいメロディが、不安を掻き立てる不協和音に変わる。で、ググるじゃん?花蕨を。……想像と全く違う。
花には見えない。
2句目は多行句。大きな空白と季語の息を止めてしまいそうな相乗効果と、終わりのブツ切れ感がゾクッとする。3句目、隠すことない生々しい悪意。4句目の伏せ字からのちゅうぶらりんな不穏さ。
からの5句目。
振りかへる貌のうつろや冬の□
全体の構成として、不気味な世界を経てようやく結論めいたところにたどり着いた、と思ったわけなんです、一瞬。その着地の瞬間に、ウッッッッてなった。この句が一番怖かった。□には変換できない漢字が入るのだけど、これが一瞬なんとなく読めてしまいそうになる字でもあって。私はなんとなく頭の中で最初「冬のまゆ」と読んでしまった。けど「あ、違うな」って思ってよく見たら……ゾッ。
「うづ」ばんかおり
かおりさんの連作は、先のお二人に比べると一見不穏さは薄めなのだが、ふとプロフィールを見ると「伊藤潤二先生の作品をイメージしました」と書いてあり、それでまず、ウッ……となる。
をんなゆえ殺されにけり雪をんな
をんなのリフレインが寒々しく、そして物悲しく響く。物騒な句意も雪をんなとの取り合わせで、その棘を潜めどこか寓話めいた印象に……とか言ってる場合じゃねえええええ!!!これ!!現実に起きてることッ!!ってのが何よりホラーです。マジで。
冬銀河こはい渦から刃を当てり
「うずまき」を読んでいないので(1話だけ無料で読んだ。怖い)、完全にこの句からだけの印象で。
最初は銀河に向かって、ぶんぶんと刃を振りかざしている景を浮かべた(ちょっと怖い)。でも、こはい渦から とある以上、渦は複数ある。おそらく目の前に、渦はたくさんあって、様々な大きさ色形で、動いていたり、止まっていたりする。いろんなものが渦巻いている。そこここに。その景は、不安定で、不安になる。こはい渦から、一つ一つ確かめるように刃を当てていく。渦は消えても、戻ってくる。増えていく。限りがない。困り果てて空を見上げれば、この星すら、大きな渦の中にある一つの点である。
と、結局、最初の景に戻る。
小さくも大きくもこの世の不安定さに気づいてしまえば、結局は歯が立たないというそこはかとなくゆるい絶望感の中で、静かにこのネプリは終わる。
ネプリプリントは1月22日まで!
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