october notes

俳句と小説と読書と記録と記憶

俳句ネプリ よんもじ vol.1

昨夜大きな地震があった。東京は震度4。横揺れで長かった。だんだん揺れが強くなるところだとか、地震自体がおさまってもマンションがずっと揺れているところだとか、2011年の地震を思い出して怖かった。家中のドアを開ける。ついでに寝室を覗くと、夫は起きていたが、5歳児は全く起きる様子がなく平和な顔で寝ていた。その後、風呂は諦め寝ようとしたが寝付きたいのに全然うまく寝付けず焦りばかりがつのり、そして寝付きたいのに全然寝付けず焦りばかりがつのる夢を見た。疲れる。

揺れが強かった地域の人たちの怖さはいかほどだろう。早く落ち着きますように。まだ夜は寒いし、停電もあって大変だったよね。本当にみんなお疲れ様だ。

 

 

よんもじ、プリントしてきました。せっかくなのでカラーで出してみた!滲んだ水彩のデザインがとても好き。

2句ずつ選んで鑑賞を書かせていただきます。エッセイについても少しずつ。

 

フィルター/西川火尖

ネクタイを貸され遅春の会議室
ネクタイを忘れたわけではないのだと思う。本来ならネクタイは要らなかったはずの会議に突然お偉方が来ることになったのか、あるいは、予定外の会議に急に招集されたのか。どちらにしても借り物のネクタイではビシっとは決まらずどことなく漂う間の抜けた感じ。遅春という季語が、フォーカスを緩やかにしている。大丈夫、どちらにしても誰も見ていないよ。

辛夷寿命の違ふ臓器たち
辛夷の花が、体の中にあるひとつひとつの臓器と同じ大きさであるかのような不思議な感覚。臓器ごとに寿命が違うというのは、まるでそれぞれに命と意思があるかのような、おもしろい捉え方で、日々意識する脳や胃や肺や腸や子宮や肝臓も、特に意識しない膵臓脾臓や胆嚢や副腎も大切にしなければなという想いが湧いてくる。そして、できれば誰も心臓より先に逝って欲しくないと願うのだった。辛夷はハラハラと見事に散るけれども。

エッセイ
火尖さんはわりと自分の弱い部分をほろほろと丸出しにする。その、己から半歩くらい引いた位置から書かれる文章は、湿っていて乾いている。セミドライの燻製のような色気と味わいがあって、私は好き。

 

クローバー/藤田亜未

断面は花畑なり恵方巻
恵方巻は(おそらく)本来の食べ方(まるかじり)をしたら断面は見えない。でもうちは関西出身じゃないから普通に輪切りにして出しちゃう。豪華な具材が詰まった恵方巻きは並べてみると確かに花畑みたいだろう。でも黙って丸ごと食べる時はそれを目にすることはできない。花畑がそこにあることに気づいていても、気づかなくても、ただ黙々と咀嚼されていくのみである。シュレディンガーの花畑。

冷凍の浅蜊の呼吸奪われし
日常的に料理をする中で、私が最も命を意識する具材が浅蜊である。そして浅蜊が生きたまま冷凍できると知った時は驚いた。少し残酷なようにも感じたが、どちらにしても浅蜊を買った時点でその浅蜊の運命は決まっている。そもそも肉も魚も心を震わせずに食べておいて、何をいうのも生ぬるい。でも奪われていく命を目の当たりにすることは、淡い衝撃がある。そして浅蜊について考える時、コンビニで売っている真空パックのしめじの味噌汁の説明をした時のイギリス人同僚の顔をいつも思い出す。

エッセイ
本当に大変なことも多い日々なのだろうと思う、けど、淡々とした日記のような文章は冷静であり、優しくもあり、そして日々に溢れる「おもしろみ」を探ろうとする俳人の視線を感じる。

 

――やまおり――/諸星千綾

突いて押す送信ボタン春北風
突いて押す、に感じる強さ。喧嘩をしている相手なのか、それとも戦わなければならない相手なのだろうか。それとももしかして送ろうとしているのは、恐る恐る、押そうかどうしようか迷いながら、最後はやっちゃえ!と人差し指でぽちっとするような、特別な勇気を伴う「言葉」なのだろうか。答えがどちらであっても、送信後は心に色んな温度を孕んだ春北風が吹き荒れるのである。

山折りと谷折りのある春の海
春の海が突然こども雑誌のふろくになったような。世界がいきなり箱庭になったような、とても不思議な、面白い句。「ある」というのがいい。きっと「ある」のだ。じっと良く見ていたら、それが見えてしまう日がくるのかもしれない。

エッセイ
千綾さんの俳句が醸し出す少し不思議な世界観と、丁寧な文章(そして人となり)に少しギャップがあって、それがとてもとても好きです。

 

春動く/池田奈加

パソコンを閉じてはじまる日の長閑
わ、わかり〜〜〜!!作業を終えてもダラダラとネットを見る誘惑からも断ち切って、まだ日の明るいうちからパソコンをパタンを閉じた時の、あの豊かな感覚。まだ世界は目の前にあるという安堵。スマホは見ないで、できればお散歩にでも行きたい。

春動くパントマイミストの起床
パントマイミストという言葉を初めて聞いた。意味はもちろんわかる。パントマイムをする人だ。パントマイミストももちろん朝起きる。でもパントマイミストがパントマイミストとして朝起きることはあるのだろうか。物を言わずに、春さえ動かしてしまいそうな不思議な力も、パントマイミストと言われると納得してしまう気がする。

エッセイ
推しが気になる〜〜〜!!!読んで元気になりました。

 

77/500