october notes

俳句と小説と読書と記録と記憶

初対面のCoccoファンとカラオケに行く妄想(by Coccoファン)

※色々と身勝手なことを書いているのでCoccoファンはご注意ください。
※曲の解釈など含めて、もちろん何もかもが私見です。

 

先週の日曜日、息抜きがてら一人で近所のスーパーに買い物に出た。数日振りの外出で少し散歩がしたかったのと、あとはお店の品揃えなども考慮して、いつも行く徒歩5分のスーパーではなく片道20分程度の場所にある店に向かった。ここしばらく子が体調を崩しており(恐らくコロナじゃないとはわかっていても)心配と不安でずっと心が落ち込んでいたのだが、朝方に医者から血液検査はまったく問題がなかったこと、そして数日ぶりに子が完全に平熱に戻ったことなどから、私の足取りはかなり軽かった。久々にair podsを取り出して音楽を聴く余裕が或るくらいには軽かった。

 

私は20年来のCoccoファンなので、基本のプレイリストはCocco全曲MIXだ。Coccoと言えば重い歌と思っている人には、お散歩向きではないのでは?と思われそうだが、そんなことはない。Coccoは本当に色んなタイプの歌を作っていて、お散歩向きのテンポがよくて可愛い歌もいっぱいある。そして、それはそれとして私は重い歌を聴きながらお散歩するのが大好きだ。そして私はレンタル家庭菜園場の緑を横目に、てくてく歩きながらCoccoに浸った。

 

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ここ数年間、1曲目は大体いつも「有終の美」である。感極まって泣きそうになっていると、2曲目にはずんずん歩くのに最適な「甘い香り」が流れてきた。そしてハイなのにグッバイ(※歌詞)しながら伸び伸び歩いていたら、3曲目に流れてきたのが「遺書。」であった。

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(プレミアムミュージックじゃないと聞けないみたいです)

歌詞はこちら。

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「遺書。」を知らないCoccoファンはまずいないだろう。そしてCoccoファンでなくとも同世代(アラフォー)オタクの間ではかなり有名な歌だと思うが、一応Coccoをあまり知らない若い人の為に説明すると、「遺書。」はCoccoのデビューシングル「カウントダウン」のカップリング曲で、「私が前触れもなくある日突然死んでしまったなら」から始まる、自分が死後の世界のことを恋人にお願いをする遺書(手紙)の体裁をとった歌詞の、しっとり切なくヒリヒリとしたティーンエイジガールバラードである。CD音源はまだ10代のCoccoの、あどけない歌唱が最高にエモい。とてもファンが多い曲で、初期の名曲の一つであることは間違いないだろう。90年代後半から2000年代初頭、この歌を元ネタにした同人誌は少なく見積もっても200冊は発行されていると思う。椎名林檎の「本能」ほどじゃないにせよ、かなりの数だ。(もちろんだけど言い掛かりです、ネタです)

 

もちろん大好きな曲だし、ライブで登場するとテンションがものすごい上がる。初期の曲だから、聞き込んできた年数も半端ない。だけど……ちょっとだけ「遺書。」には微妙な思い出がある。一言でまとめると「カラオケで自己陶酔をしてCoccoの遺書。を歌う人がちょっと苦手」なのだ。具体的に何があったかは書かないが、そういうタイプの人に過去何度か遭遇したのだ。「遺書。」が悪いわけじゃない。なのに「遺書。」を聴く度に、未だにその若干もんやりとした気持ちを思い出してしまうので、割と本当に自分にウンザリしている。昨日もそう思った。「私よ……もうその話はいいよ……」

 

そして、そんな気持ちを払拭するべく、私は暑い住宅街を歩きながら「じゃあ、Coccoファンと自称する人物がカラオケで一曲目に何を歌ったら「おぬし……やるな!!!!!」と思うかな」と言うことを、真剣に考え始めたのであった。

 

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丁度流れてきたのは、あの曲だ。そう、世間的にはCoccoと言えば!の「強く儚い者たち」である。Cocco本人も名刺と言っているので間違いない。私も初めてCoccoを知ったのはこの曲だし、今でも大好きだ。ただ、「強く儚い者たち」は、違う気がする。曲が悪いのではない。「Coccoガチファンが、初対面のCoccoファンと行くCoccoカラオケで、1曲目につよはかを選ぶ」という状況が、現実では起こりえない気がしたからだ。つよはかはきっとどこかでは歌うだろう。だが、1曲目に切るカードではない。まだファン同士、腹の探りあいをしている状況だ。1曲目は舐められてはいけない程度にはマニアックで、しかしカラオケと言う場を盛り上げるには相応しい曲でなければいけない。

 

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もう一つ、世間がよく知っているCoccoの曲は「焼け野が原」だろう。2001年の活動休止前に彼女がMステで見せたあの歌唱は、ちょいちょい特集などで再放送される名場面でもある。歌詞もメロディもポップでキャッチーで、そしてめちゃめちゃ切ないという、初期Coccoが持ちうるパワーを全て持ってこちらに殴り掛かってくる名曲、それが焼け野が原。めちゃくちゃどうでもいい情報だと思うけど、うちの旦那が一番好きなCoccoの曲も焼け野が原。でも、これも完全な私見だけど、焼け野が原もこの状況における1曲目じゃない……気がする。やっぱり有名過ぎる。

 

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じゃあマニアックな曲って言ったら何?ってなる。マニアックとは言わないけど、それでもこの曲を好きじゃなかったらCoccoファンだとは認めない!!!!という曲はあって、それは「音速パンチ」である。何で音速パンチって?音速パンチは、Coccoが2001年の活動休止後、2006年に活動再開した時のファーストシングルで、当時聞いた時はそれなりのビックリがあった。音速パンチは良くも悪くも「Coccoっぽく」なかったのだ。(今はめちゃめちゃ、ザ・Coccoな歌だと思うけど、当時はまだどのCoccoファンもCoccoの引き出しの多さを知らなかったと思う)で、音速パンチはめちゃめちゃかっこいいしかわいいしえっちだし元気が出るし魂浄化されるし大好きなのだが、歌詞が何故か送り仮名が全部カタカナなので、字面がちょっと怖いということがある。それが理由と言うわけではないが、カラオケ1曲目にくるのはあまり想像が付かないな。

 

等々。
畑の間の道はすっかり抜けて、大通りをちんたら歩きながら、私はつらつらと考えた。プレイリストが流れてくる曲を、一つ一つ吟味しながら、その架空のカラオケについて想いを馳せた。

 

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陽の照りながら雨が降る」壮大かつ雄大な愛の歌だけど、少し静か過ぎて、1曲目のイメージではないかな。→「花柄」か……。激しい。ぶっちゃけ初メンがいるカラオケでいきなり1曲目に歌うのは、遺書。を選ぶより遥かに危うい感じがするな。→「手の鳴る方へ」大好き……むしろ私が後半に歌いたいから歌わないで欲しい!→「パンダにバナナ」きゃーー!1曲目にこれ持ってくる人がいたらめっちゃ愛してしまう……けど、いないだろうな……。→「海辺に咲くばらのお話」というか多分そのカラオケルームで半分くらいはコンポジワンピ着てるんでしょ!?私も着てくね!!→「ジュゴンの見える丘ジュゴン大好きだけど、カラオケで歌うの難しいよね〜〜って自分の感想かーい。→「蝶の舞う」いや、大好きだけどさ!?思考回路入りくねり過ぎでしょ落ち着いて!!→「ポロメリア」大好きだけど〜〜〜20世紀最後の名曲(自分調べ)だけど〜〜〜〜Cocco先鋭が集まるカラオケ1曲目では無難すぎないかな?→「ウナイ」いやいやいや、みんなで泣きながらウナイを歌うのは終盤なのではーー!?!?

 

段々脳内で設定がもらられていくので、もはや想定が歴代のCoccoファン(猛者)が集うカラオケになっている。こんな調子で、スーパーで品物を籠に入れながらも、ずっと考えていた。Coccoの曲を一曲一曲考えていくのはとても楽しい。ただ、やっぱりしっくりする歌が来ない。これはもう論理的にどうこうという話ではなく、私の勝手なフィーリングの話なのだろう。

 

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買い物が終わり、帰り道。家に帰りつくまでにその曲は流れてくるだろうか。私はマスクをしてるのを良いことに、「ドロリーナジルゼ」を口パクで歌いながら、大好きだけど、(っていうか、大好きじゃない歌なんてないんだけど)この歌でもないなぁ〜、などぼんやりと考えていた。→「バイバイパンプキンパイ」ああ、泣く。泣くよね。優しい世界がヒリヒリ痛む……。でもちょっと優しすぎる。→「クロッカス」高音がね~~中々でないよね~~~。→「初花凛々」あーーー1曲目にふさわしい可愛さと明るさとポップさ~~~!!でも我侭を言うとCoccoカラオケだから1曲目はCocco名義の歌がいいかな~!→「風化風葬」うわーん(涙)~~これは絶対に場が温まって全員の涙腺の準備オーライになってから歌ってくれ~~!!

 

 

こうして思い出し書き出してみるに、自分でも思うが本当に勝手なことばっかり言っている。勝手な妄想の話なんだから、それでいいんだけども。しかし、何かこう、パンチがあって華があって衝撃があって愛があってパワーがあって、誰もが1曲目で「あああーーーっ!」てなる曲ないもんかな〜〜、と、私は曇りつつある梅雨前の空を見上げて思った。

 

そしてその時に流れて来たのが「ニライカナイ」だった。

 

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馬鹿みたいなんだが、アスファルトの上で立ち止まってしまった。
ぞわっとした。鳥肌が立った。

力強く透き通るCoccoのかけ声。
怒濤のエイサー。
血が沸き立つ音。
怒りと愛が爆発する歌唱。
歌が生まれた背景。時代。
初めて聴いた時、あの瞬間、ファンを貫いた衝撃を、何か突然、急に、全部思い出した。

 

ニライカナイは、Coccoの16枚目のシングルで、2010年に発売された。
沖縄の言葉で楽園とか、理想郷とか、そう言う意味の言葉だけど、優しいだけの、綺麗なだけの歌ではなくて、力強さと軽やかさを併せ持った愛と怒りの歌だ。
Coccoが真正面から、自分の故郷である沖縄を、「今の」(2010年当時の)沖縄を歌った歌でもある。

 

2010年に、はじめてこの曲を聴いた時は衝撃を受けた。
その理由は一言では言い表せないので、以下長々と解説する。

 

ニライカナイのリリースより少し遡って、2007年、Coccoは「きらきら」という光に満ちたアルバムを出した。今でもよく覚えているのだけど、アルバムリリース当時に彼女のインタビューが載った新聞記事には大きなフォントで「闇を抜けて陽だまりへ」というコピーが付けられていた。だけど、そのきらきらの裏側でのCoccoの葛藤は、ファンが想像しうるよりもかなり深く激しいものだった。(それを詳しく知ったのは、2009年に出たドキュメンタリー映画「大丈夫であるように」を見てからだ)

 

2005年から精力的に活動をしていたCoccoは、2008年1月、きらきらライブツアーを終えてから、ぱたりとその動きを止めてしまった。体調を崩しているとの噂もあり、ファンは皆、とても心配した。(と、思う。私はした。)苦しいなら無理に歌ってくれなくても構わない、生きてくれていたらいい、穏やかに日々を過ごしていられるならそれでいい、どうか世界が彼女に優しくありますように、どうか、どうか、と、彼女の無事を祈っていた。2009年にはミニアルバム、こっこさんの台所CDが出た。収載されている歌はどれも美しく悲しく優しく、彼女の元来の強さを感じさせるものであったが、それでもその中のシングル的扱いの「絹ずれ」のPVでは痛々しいほどに痩せてしまった姿に胸が痛み、また同じ時期にでたPapyrusのインタビューでは、彼女がまだ苦しみの最中にいることがわかって、引き続き、心配しつつ、その心配すら彼女の負担にならないようにと息を潜める日々が続いた。

 

そんなある日、突然リリースされたのがこのニライカナイである。
曲のリリースの発表と、YoutubeでPVが公開されたのはほぼ同じくらいのタイミングだったんじゃないかと思う。(もしくは衝撃が強すぎて記憶がごっちゃになったかだが)

 

もうなんか、こっちの心配とか、不安とか、全部ぶっ飛ばすほどの強さ、美しさ。Coccoが持ちうる世界の、力強さ。
「大丈夫だ」と、思った。Coccoは大丈夫だ。
そもそもこの私ごときが心配するような御仁ではないのだ、Coccoだぞ!!?!!?!?
申し訳ありませんでした、ははーーー!とひれ伏してしまうような。
そんな、安堵と喜びと涙と興奮と。
会社の帰り道、歌を何度も聴きながら、泣きながら笑った。笑って、泣いた。

 

ニライカナイはそう言う歌だ。楽曲、歌詞が素晴らしいのはもちろんだけど、あえて言うならCoccoという物語において、エポックなのだ。それこそ「焼け野が原」と並ぶぐらいの。

 

華もインパクトも持ち合わせ、Coccoらしさに満ちていて、マニアックとは言わないが、Coccoをずっと愛している人でないと手元には持っていない歌、それがニライカナイ

 

そしてこのニライカナイ、……私は歌ったことないんだけど、多分、いや、間違いなくめちゃめちゃ難しい歌でもある。
どれくらい難しいかと言うと、たまに本人も難しそうに歌っているところからして、難しいんだと思う。

 

でもだからこそ、うまかろうが、下手糞だろうが、それを乗り越えても1曲目に「ニライカナイ」という選択をする人を、本物だと私は抱きしめたい。そして涙を流してありがとうと言うだろう。そして泣きながら、キヨシのパート(ラップ)で参戦しつつ、一緒にCoccoにお礼を言いたい。同じ時代に生まれて来てくれてありがとう、この感動をありがとう。Coccoよ、歌を届けてくれてありがとう……。ありがとう、じゃあ私あとでしみじみと「やぎの散歩」(カップリング)歌うね……(涙を拭いながら)

 

ということで、長々と文字数を使いましたが、結論は「ニライカナイ」でした。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
どうか怒らないでくださいね。
再三言うけど「遺書。」は名曲だからな!!!!!!!

 

それにしても久しぶりにこんなたくさんCoccoを聴いて、Coccoのことを考え、架空のCoccoファンとの妄想に浸ったこの時間はめちゃめちゃ有意義であった。ただの息抜きを兼ねた夕飯のお買い物がこんな充実した時間になるとは……。もう一度言うけど、本当にCoccoよありがとう。愛してる。一生付いて行きます。

で。
ここまで書きながら、じゃあお前はCoccoファンとカラオケ行ったら1曲目何歌うの?って自問してみた。

 

えーと。
……「Raining」?

 

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うん。
ないわ。
いや、ここまで色々好き勝手言っといてRainingはないわ!?
超名曲だけど、大好きだけど、大大大好きだけどダメだわ!

 

 

ということで!!
もしかしたらいつか訪れるかもしれない初対面のCoccoファンとカラオケに行く日の為に、私はNINTENDO Switchのカラオケで「パンダにバナナ」の練習をしようかと思います。めっちゃノリノリで、ザ・オープニングって感じだし可愛いし。「ニライカナイ」は、ほら、相手の為にとっておかなきゃだしね!

 

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2番Aメロの「忘れ方がわからない」のCoccoの目配せ最高にかわいい!
(でもこれカラオケ入ってるかな……?)