october notes

俳句と小説と読書と記録と記憶

炎環 Vol.501(2022年3月号)

これ以上やること増やしてどうするんだ、と自分で思わなくはないのだが、毎月結社誌に投句する時の葉書の手書きが汚いのにほとほと嫌になり、ペン習字の練習帳を買って、少しばかり練習を始めた。量をこなす系のドリルは苦手なので、どちらかというとここを押さえたらOK的なコツ多めの、優しそうな本を手に取ってみた。私は右利きだが、このシリーズは左利き用もあるので、それもいいなと思ったポイント。

同じ字をずっと書くのはすぐ飽きるし、1日20分もやってないんだけど、最近開きっぱなしにしている無印のA4ノート(方眼・ルーズリーフになるやつ)があって、それに仕事のことも、日々のタスクも、俳句も、小説のネタも全部思いつくままにメモしているので、その端っこでちょいちょい練習をしている。仕事が一つ終わった時とか、ポモドーロの休憩時間とか、寝る前とか。無心に字を書いてるのは割と楽しく、頭も空っぽになりマインドフルネス的にもいい気がしている。漢字はゆっくり書けばまあまあ綺麗に書けるようになったのだが、ひらがなやカタカナのバランスがかなり難しい。意識をすると乱れる。学研教室に通いだした子も字の勉強をしているので、隣で私もひらがなの練習をする。余談だが学研教室は公文に比べて宿題の枚数が少ないのが良いなと感じている。

どうしてもスピードを上げて書こうとすると崩れるので、そこは練習だな。息抜きついでの作業で字が綺麗になったらおトクだなと思うので、ちょいちょい気楽に続けたい。

俳句の鑑賞を書く時は、上記のA4ノートに一度書き写すことにしている。丁寧に書くと、一歩句に近づけるような気がする。人数が多い句会は無理だけど、小さなZOOM句会の時は、あらかじめ全句書くようにしている。コメントや気づきなども書くと、後から見返した時に勉強になるし、楽しくていい。おお、ちゃんとお勉強してる感があるな。

 

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結社誌からいくつか。

 

羊日や布の真中へ截ち鋏 小笠原黒兎

黒兎さんのこちらの句は、前にご一緒した句会で取らせて頂いた句の別の形だと思うのだけど、前のもとっても好きだったけど、こちらの形も素敵。羊日(一月四日)、というのがとても良くて、三が日が過ぎてやっと自分の好きなことができるようになった日に、気持ち新たに布にまっすぐ鋏を入れるのが、清々しくて好き。

 

影ひとつ点となるまで枯野原 鈴木まさゑ

枯野原の色彩の乏しさに、影の黒が点描みたいに滲んで消えていく感じが、寒々しく、寂しく、とても良いと思った。

 

雪ダルマ首傾げつつ地に帰り 井上ほつみ

二月に雪が降った時に、朝の公園で雪だるまを作った。多分、あの子は当日の午後には水たまりになってしまったと思うけど、きっと雪国の雪だるまは春が近づくにつれて「あれ?あれ??」と首を傾げながら、地に帰るんだろう。

 

東京は橋多き街都鳥 灰谷和子

東京の橋というと海に近いあたりの浜松町、あるいは晴海のあたりのイメージが強くて、なんとなく東側の人なのかなぁと思ったのだが、大きい川はもちおろん、小さい川だって都内の至る所にあり、住宅地だから橋もかかっていているのだから、確かに橋は多いなと納得した。それでもやっぱり海側が浮かぶのは、季語の都鳥の印象が強いからかもしれない。私にとっては東京はどんな街だろう、としばしぼんやりした。

 

もう二度とサンタクロースにならぬ父 鈴木健司

プレゼント手配も隠すのもバレないように置くのも知らん顔するのも、サンタ業は色々と大変なのだけど、それができる時間というのは本当に一瞬なんだよな、ということを思ってちょっと寂しい。その、ありとあらゆる「もう手に入らない瞬間」の中でも、これはもう、断トツに寂しい感じがしてしまって、胸を撃ち抜かれたのであった。

 

年の瀬や駅のピアノを遠巻きに 丹間美智子

年末のざわざわした駅の感じ、そこから漏れ聞こえてくるピアノ、人も多いしわざわざ見に行ったりはしないけれど、一瞬だけ足を止めて振り向いてみたりして。きっとまたすぐに歩きだしてしまうんだけど、何となくピアノの音が耳に残っていて、雑踏も違って聞こえてくる。

 

風そこにねじれていたり絵馬の紐

さざんかに風あり誰も気づかざる 田島健

田島さんの句は、風が面白かったので二つ。捻れているのは絵馬の紐なのに、そこに小さなつむじ風があったかのような、不思議な発見が面白い。そして、大きな風はないのに何故か花が一つだけゆらゆら揺れているような、そんな瞬間、確かにあるなと思って。先日、伊豆で訪れたレストランの庭にたくさん風車があったんだけど、何故かその一つだけがすごい勢いで回っていたのをふと思い出した。世界のことって割と何でもわかっているようで、こんな身近なことすら見えていない、風の不思議。

 

 

弟の独りで作る雑煮かな 三倉十月

 

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